立体表示がテレビゲームにもたらすデメリットとは
ニンテンドー3DS、PC、PS3、xbox360など、ゲームの世界でも立体表示(3D表示)に対応したハードがこれからどんど増えていく事になりそうですね。
バーチャルボーイを発売日当日に購入したり、PCのゲームを立体表示してくれる液晶シャッターメガネ(私が持ってるのはELSAの3D revelatorってやつです)を昔買って当時はdirectX対応のゲームを3D表示して遊びまくったりしてた者としては、3D化の流れが加速していくのは嬉しい限りです。
ただ、「まるでそこに実際に物があるように見える」「空間の奥行きが感じ取れるようになる」など、立体表示には「臨場感が大幅に増す」という魅力的な利点がある一方、実は立体表示にはテレビゲームにとってはマイナスとなる面もいくつか存在してたりします。
今回は立体表示がゲームにもたらすデメリットのいくつかをちょっと列挙してみたいと思います。
1.上下二画面を縦につなげて3D表示していたゲームは原則作れなくなる
これは二画面搭載している3DSに関する事ですが、DSのドラクエVみたいに上下の画面をつなげて一画面的な感じで3D表示をしていたゲームは、原則作れなくなってしまいます。
上画面だけ立体的に表示して、下画面は平面的に表示するとおかしくなるからですね。
もちろん一画面だけ使うゲームや、上下とも2Dで表示してるゲームならこの問題は発生しません。
2.二画面を使ったゲームは作れない事はないが、今までと同じ感じでは作れなくなる
じゃあ3DSで片方の画面(下画面)は2Dのステータス表示などに使えば問題ないかというと、「作れない事はないが今までと同じ感じでは作れない」という事になります。
E3で実機を見た人でないとピンと来ないかもしれませんが、だいたい似たような距離にある二つの画面で、片方は立体的に表示・もう片方は平面的に表示となってる画面を交互に見る場合、「視点をあわせる」(この場合は眼のレンズを調整する事ではなく、眼の輻輳の調整の方の意味。)までに若干のラグが発生してしまいます。
今までのDSのゲームでは、二画面どちらも平面的に表示してた事もあり、上画面を見てから下画面を見る(あるいはその逆)でも一瞬で視点をあわせられてメイン画面とステータス画面間での視点の移動は瞬時に行えるものとしてゲームを設計できました。
でも、これからはメイン画面が3Dのゲームの場合、「下のステータス画面に眼をやる場合は視点があうまで若干のラグが発生する」という事を考慮してゲームを設計しないといけません。
リアルタイムで下画面の情報も頻繁にチェックしないといけないゲームの場合、このラグが結構問題となりそうです。
実際に今回のE3で3DSの実機を触った方からも、この問題が指摘されています。
(上画面と下画面を交互に見ると視点をあわせるまでにやや時間がかかる事。また上下の画面を交互に見ると目がより疲れやすい事など)
3.ステータスパネルなどにこまめに目をやらないといけないゲームは目の疲れが激しい
その2と似たような感じなのですが、一画面のゲームでも画面内にステータスパネルなどが存在する場合、そこへこまめに目をやらないといけないゲームでは、今までと違って目が結構疲れるようになります。
昔PCのゲームを立体表示していろいろ遊んだ時の事ですが、立体表示するとFPSなどではステータスパネルだけは平面的に浮かんだ感じになるのですが、立体的なフィールドと平面的なステータスパネルに交互に目をやる場合、その目の疲れは尋常ではありませんでした。
立体表示の場合は今までの平面表示の場合と比べて目の輻輳の調整(左右の目の距離が開いたり縮まったり)のための運動量が大幅に増加するようでして、そのせいで目がかなり疲れるようになってるみたいです。
「3Dテレビを見ると2Dテレビを見た時と比べて目が疲れやすい」といわれる原因はこれだと思います。
その2で書いたように、立体的なフィールドに目をやってから平面的なステータスパネルに目をやった際(あるいはその逆)、像がきちんと一重になるまでに微妙なラグも発生するようになるため、それによるストレスや視認性の悪さも発生します。
4.3Dゲームは画面内の物体の認識力が2D表示の時に比べて結構落ちるという事
立体表示は物の前後関係が空間的に認識できるようになるという利点がある反面、「現在視点をあわせてるのと同じ深度にないオブジェクトは必ず二重にぼけて映ってしまう(=何がなんだかわからなくなる)」という大きなデメリットが発生します。
これは実際に以下の事をやってみれば理解できるでしょう。
まず眼の前に指を1本立ててみます。
片目をつぶった状態で、指に視点をあわせ、その状態で指の近辺に映ってる指より奥にある物も同時に見ても、(眼のレンズの焦点が指にあってるためややぼけてるものの)その奥にある物体はきちんと1個として認識できるはずです。
今までのテレビゲームの画面の場合は平面だったので実際は奥方向の違いによるピントぼけも発生せず、「現在視点をあわせてるオブジェクト」と、「その周辺のオブジェクト」はどちらもぼける事なく『同時に』認識できるようになってました。
ところがこれが両眼で立体視すると話が違ってきます。
両眼を開いた状態で指に視点をあわせたまま、指の近辺に映ってる指より奥にある物体を見ようとしてもどれも二重にぶれてぼんやりとして認識できなくなってると思います。
左目と右目のそれぞれに映ってる映像では、現在視点をあわせてるのと同じ深度にある物体以外は左右の位置にずれが発生しており、そのせいで視点より奥(あるいは手前)にある物体は脳内では二重にぶれてしまうようになっています。
視点をあわせてる深度より奥にあるほど(あるいは手前にあるほど)大きく左右にぶれて映ってしまいます。
<今までと同じ平面ディスプレイを見た場合> いずれの物体も脳内では1個に見えて認識しやすいです。実際は網膜の中央あたりに映る映像から周辺にいくほどだんだんとぼけていくのですが、ある程度のエリア(視野)までの情報を瞬時に一括して認識できます。
<3Dディスプレイで見た場合>
視点をあわせてある物体(この例では中央やや左下の球の深度に視点をあわせています)と同じか近い深度にある物体はあまりぶれてませんが、視点とは異なる深度にある物体は、画像のように脳内では視差のせいでぶれてしまっており、認識しにくくなってます。
(実際は視点位置・深度は常にこまめに変化するため、画像よりは多少ましに映ります)
これがゲームにとってどのようにマイナスになるかというと……。
今までのゲームの画面は常に平面表示だったため、プログラム的には3D空間で前後に存在するオブジェクトであっても、画面内に映ってるオブジェクトは二重にぶれる事なく映ってました。
例えば横スクロールのシューティングではプレイヤー機とそのプレイヤー機周辺の背景はどちらもぶれておらず同時に認識する事ができました。
ところが3D立体表示では視点をあわせてる深度とは別の深度にある物が二重にぼけて映ってしまいます。
横スクロールのシューティングでは、背景に視点をあわせてしまうと背景より手前にあるプレイヤー機や敵機・弾などはいずれも二重にぶれて認識しずらくなってしまいます。
実際に立体表示される事を考慮して、プレイヤー機・敵機・弾・アイテムなどは不自然かもしれませんが同じ深度に位置するようにデザインし、基本的にプレイヤー機のいる深度に常に視点をあわせた状態でゲームをプレイさせる事になると思いますが、それだと背景の方は二重にぶれて「何がなんだかわからない」という感じになってしまいます。
一時的に背景の方にプレイヤーが意識を集中してしまうと、その間はプレイヤー機や敵弾などがぶれてしまいます。
今までのシューティングゲームではプレイヤー機も背景もぶれる事なく、『同時に』はっきり認識できたのが、立体表示ONだとずいぶんと勝手が違ってくると。
平面表示と立体表示では画面内に映ってるオブジェクトの認識のしやすさ・認識の速度に大幅に違いが出るというのは、二枚の写真を並べて見る交差法あるいは平行法方式のステレオグラムなどを見たらわかりやすいです。
(ネットなどでいろいろな人が平行法・交差法で見る風景画像を公開されてると思います)
片目をつぶって(あるいは片方の画像だけ見て)画像内の物体を認識する場合に比べて、ステレオグラムを両目で立体視して見た場合は、画面内の複数のオブジェクトを同時に認識しにくくなってるのが実感できると思います。
(手前の方にある物体に視点をあわせると奥の方は二重にぶれて、奥の方にある物体に視点をあわせると手前の方が二重にぶれて、といった感じで)
ゲーム製作者はこれを考慮してゲームバランスの調整や画像の情報量の調整をしないといけないでしょうね。
立体表示はプレイヤー側が任意でON・OFF切り替えられますが、基本的には「立体表示ONで遊ばれる」というのを前提として調整を行う必要があります。
またRPGやその他のゲームなどでもこの「深度の違いによる二重ぶれ」の問題を抱えています。
例えばRPGのイベントシーンなどでキャラが奥や手前にばらけて配置してる場合、次にどの深度にいるキャラがアクションを起こすかをプレイヤーにそれとなく意識させておかないと、大事な演技・表情が「一瞬二重にぶれててよくわからなかった」という事態を引き起こしかねません。
プレイヤー的には手前のキャラに視点をあわせているのに、奥の方のキャラが突然アクションを起こした場合、瞬間的ではあれ奥のキャラは二重にぶれた状態でプレイヤーの眼に映ってる事になってしまいます。
この問題はゲームだけの問題ではなく、3Dの映画などでも同じ問題を抱えています。
映画やゲームのイベントシーンなどでは、デプス・オブ・フィールド(DOF)などで「視点をあわせて欲しい深度とは異なる深度にある映像はあえてぼかす」事によって、プレイヤーの視点(の深度)をそれとなく誘導するという事をやってくるのが増えていくかもしれません。
(でもそれはそれでプレイヤーが自由に好きな場所に視点をあわせる事ができなくなって窮屈な感じがしますが……)
上記のように、3D立体映像には「ハードウェアでON・OFFするだけでいい」わけではなく、実際はコンテンツを製作する側が意識しておかないといけないいくつかのデメリットを抱えています。
それらのデメリットを解消する、あるいは目立たなくするためのノウハウ(画面内の情報量の調整、視点の誘導、眼の疲れをできるだけ減らすインターフェイスデザイン、その他)はこれから各メーカーが蓄積していかないといけないでしょうね。
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